世界の切れ目


<赤の魔力>


赤は不思議な色だ。赤は火の色。そして日の色でもある。稲荷では赤は魔除けの色なのだそうだ。赤は人の注意を惹く。人は否応なしに赤に引き寄せられる。赤は人を興奮させる。その一方で赤は人を威嚇する。
赤は人を引きつけると同時に威嚇する。両義性を持った色だ。赤は火の色。火のこちら側は人間が暮らす世界、火のあちら側には異世界がある。火は世界の切れ目。赤は世界の切れ目を表す色。人の注意を惹き、人を脅かせる。魔物をも遠ざける。赤は不思議な色だ。<血の滲む石>


そう言えば、血も赤い。血は生命の流れ。大量の出血は人から生命を奪う。
赤い錆のついた石碑は命を持っているようだ。いや、正確には命を持って「いた」ようだ。赤い錆は死の証拠。かつて輝いていた生命は赤い錆をつけることで死を迎えた。<地界へと続く石>


頑丈な格子によって守られた石。この石は「要石」と呼ばれている。この石は世界を支えている。この石を引き抜いた時、世界は無様に崩れ去る。
伝説では、この要石は地中にいる鯰を押さえ込んで地震を防いでいるのだそうだ。地中深くまで続くこの石は、鯰だけではなく多くの魔物が棲む地界に蓋をしている。つまり、地界との接点となっている。要石は世界を支えているだけではなく、異世界へと通じるメディアでもあるのだ。要石に耳をつけると、地界の鼓動が聞こえてくる。
地界の力はリビドーだ。この石がリビドーの暴発を押さえている。要石は超自我なのだろう。なんらかの衝撃で、超自我が弱まったとき、世界は脆くも崩れ去る。人格が簡単に崩れ去るのと同じように。